【現代的なチーム・ビルディング】
私はスポーツ指導の専門家ではありませんが、30年以上アスリートを取材してきた立場から、最近、「大変斬新で現代的だ」と感銘を受けたプロスポーツチームの監督の考え方を共有したいと思います。これは女性のチームスポーツにおいて、チーム全体・個々の選手共にメンタリティを向上させるものだと感じました。事実、このチームは今年の開幕から12連勝を記録し、今も連勝は続いています。チーム名や個人名は伏せてお伝えします。
欧州女子サッカーは近年大変な盛り上がりを見せていて、日本人女子選手も様々な国のプロチームに多数在籍しています。中でもイギリスでは急激に盛り上がっており、11月のイングランドVSアメリカの国際親善マッチは8万人を収容するウェンブリースタジアムで前売りチケットが早々に完売したほどです。実際この監督率いるチームからは、この試合にも多数の所属選手を送り出しています。今年から新しい女性の外国人監督が就任したのですが、彼女の最大の目標は「チーム全員で欧州チャンピオン・リーグチャンピオンを目指す」です。よくある「全員○○」「チーム一丸」と思われるかもしれませんが、スローガンとしての「全員で」ではなく、本当に「レギュラーと控え」の区別なく一定の課題をクリアし、監督コーチの意図・戦術を理解したら、本当に全員を試合で使っています。何度かミスがあっても、必ずチャンスを与えています。
チームは、元々、30人の選手が在籍している(サッカーならばサブ含め2チーム組める。リーグトップクラスの実力で、リーグ戦・国内カップ戦・欧州選手権すべてに参加するうえ、大部分の選手が各国の代表としてW杯・五輪・国際親善マッチに召集されるようなチームで、日本人選手も在籍しています。
【監督の象徴的な言葉】
10日にリーグ戦を戦い、14日に他国で欧州選手権、17日に再びリーグ戦という過密日程に直面した際、監督は前試合の先発メンバーから6人を変更しました。試合中に5人を交代させ、見事に完封勝利をかざりました。
「シーズンの初めから、それが私の考え方でした。私たちはたくさんの試合をこなし、全員が参加していることを確認しなければなりません。また、私にとっては選手やチームへの信頼を示す機会でもあります」
「私やコーチは、選手のローテーションが重要だと考えているだけでなく、チーム内のメンバーにさまざまな役割の経験を積んでもらいたいと考えています。このチームにとって重要なだけではなく、各国の代表に選ばれる際、また招集された際、ポリバレントな選手は重要視されるからです」
監督はさらにこう付け加えます「まず第一に、選手たちはピッチ上で適応し、柔軟でなければならないので、これは本当に重要なことだ。これにより、試合中、そして対戦相手に応じて、システムや組織を変更する可能性が生まれる。」
「いつも同じようにプレーすると、より予測しやすくなり、相手にとっては分析しやすくなり、ブロックの仕方が分かりやすくなります。このようにさまざまな選択肢があることは、選手にとっても、監督である私にとっても良いことです。」
「先週と今夜の試合を見ても、パフォーマンスのすべてが完璧だったわけではないが、結果的には良い状態にある。これは大きな自信につながるし、我々にとってこの調子を維持することが重要だ。だから、ポジティブなことがたくさんあった。」
【チーム全員で共有する信頼・自信・勇気】
外部から見ていると、チームから発信されるHPやSNSを通じて、試合結果だけではない要因も見えてきます。まず、練習が高いモチベーションが保たれていて、選手は練習に参加するところから本当に楽しそうです。そして選手同士は先発を争うライバルのはずなのに、とても仲が良さそうに見えます。これは前述の監督からの「信頼」を選手が受け止めている表れでもあり、試合での役割を指導者が明確に指示し、それを実現するための反復練習を徹底しているのからです。選手各々が役割を担えるに十分なレベルに達するまでコーチが指導し、選手は自信を持って出場機会に対応できるからだと思います。それは今シーズン初めて先制を許し、連勝が危ぶまれた試合で証明されました。初めての苦戦に直面した監督の杞憂を吹き飛ばしたのは、チームの粘り強さとゲームプランを貫く姿でした。
「両チームとも今日は大きなミスを犯した。たとえボールを失ってそういう状況に陥ることもあるかもしれないが、チームと選手たちがもう一度挑戦するだけの自信と勇気を持ってほしい」「時には、より良い決断を下すこと、より迅速に実行すること、より良くスキャンすること、制御することなど、高レベルで本当に重要な多くの小さな詳細が重要になります。」「最も良いチームとは、ミスが最も少ないチームです。試合ではミスは必ず起こります。私は選手たちに、もう一度挑戦する勇気を持ってほしいと思っています。」
監督は「信頼」「自信」「勇気」、この三つの言葉を常に口にしています。
【常にもたらされる新風】
連勝が11試合に達したこの試合ではもう一つのビッグニュースがありました。クラブと初のプロ契約を結んだ17歳の選手を短い時間ながら、欧州チャンピオンズリーグ戦に初出場させたのです。
「彼女個人にとっても、クラブにとっても特別な一週間だ」と監督は語りました。「特にチャンピオンズリーグの試合で出場する機会を得られたことを、本当に嬉しく思う」
「彼女は我々と一緒にトレーニングをしてきました。若いながらも才能が見えます。選手としてとてもダイナミックで、とても頭が良く、ボールの扱いが本当に上手です。彼女は成長し、今夜の経験は彼女に大きな喜びと自信をもたらすでしょう」
「監督として、私は若い選手たちとたくさん仕事をしてきました。特に前職のアカデミーにいたときはそうでした。若い選手たちにチャンスを与えて、自分たちの実力を発揮してもらうことができるのは、私にとって特別なことです。それは本当に素晴らしいことであり、クラブが若い選手たちをうまく扱っていることを示しています」
ほかにも日本人選手を含む19歳から21歳までの7人は「Kids are STAR!」「Seven under twenty-one. The next generation bigins now.」と公式SNSで紹介されています。
【好循環】
実はこのチームの前任監督は7年以上チームを指揮し、歴代欧州最高峰の実績を上げ、今はある国の代表監督を務めています。退任後も幾度となく最優秀監督として表彰を受けています。前任監督は先発選手を固定することが多かったように思います。去年の国際大会でも、ほぼ11人を固定しチームを世界一に導きました。
どちらのやり方も正しいと思います。どちらかといえば前任監督のやり方の方が現時点での主流だと思います。一方、新任監督の方針は下部組織にも貫かれていてキッズも含めて入団希望者が倍増以上に増えているそうです。観客動員数も増加、チームグッズも売り上げ増、このチームと同じ地域に本拠地を置き、ダントツの人気を誇るチームに肉薄しているそうです。
なぜ、言葉通り「チーム全員で戦う」ことを「現代的で斬新」というかの真意は、少年期から高校生くらいまで、スポーツをしていたならば試合に出場する機会はある程度平等であっておかしくないし、指導のやり方で不可能ではないということ。また、どんな選手でも試合に出た時の責任感の重さは言葉で伝えても経験し難いものです。そしてスポーツでは、どんなに努力しても、努力しただけ結果が伴うことは少なく挫折や失望ばかりといった経験は、その後の人生を乗り越え易くし、好循環を生む材料に他ならないからです。続きは、また後日。
今後は「競技人口のすそ野を広げる」「高校進学で県外強豪校に行ってしまう」課題などにも触れたいと思います。